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2019年11月14日

つかずはなれず、飄々(ひょうひょう)淡々(たんたん)と~“人間(じんかん)”生と孤独と愉しみと~

井嶋 悠

夏目漱石の傑作『草枕』の冒頭の有名な一節。 「智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
で、つかず離れずこそ人間、己が気持ちよく生きる知恵だと74年間顧みて痛感する。
しかし、今もってその人生体験訓をきれいさっぱり忘れて、悔やむこと、若い時ほど多くはないがある。 或る人は「それって寂しい考えだね、孤独だね」と憐れみ、蔑(さげす)むかもしれないが、生まれるときも死ぬときも独りなんだから、それが一番自然態なのでは?と、いささかの意地を張る。
若いときはそうは行かないかもしれない。が、この身勝手さで中庸では、と当事者の葛藤を慮(おもんばか)りながらも、青年時に出会った人々、また息子・娘を見ていてそうと思う。 だから「絆」との言葉、「ああ、あれね、絆創膏の絆ね。」と茶化したりする。
もっとも、漢和辞典で絆を確認すると字義に「自由を束縛するもの」とあって、我が意を得たり…、とニンマリしている。

「いじめ」は、言ってみれば、つき過ぎの、徹頭徹尾の悪である。
ただ、いじめ=子ども同士、或いは大人同士の視野から離れるべきだ。教師の子どもへのいじめの何と多いことか。教師自身が自覚していない無意識?なそれも多々ある。中にはそれを教師愛と思っている輩(やから)さえいる。いかにも教師らしい?そして私は元その中高校教師だった。

地球の東西文化で、人と人の在りようについて、その能動性と受動性、積極性と消極性が言われる。
「己の欲するところを人に施せ」 『聖書』
「己の欲せざるところは人に施すなかれ」 『論語』
やはり私は儒教心をどこかに秘める東洋人、より限定すれば東アジア人、なのかと思う。 根拠は、前者を言われれば、「そうとは思いますが、私にはどうも…、距離を置く指向で…」とか煙に巻いて逃げる。

とは言え、「つく」と「はなれる」の境は微妙に難しい。まさしく阿吽(あうん)の機微だ。これも「東洋的調和」かもしれぬ。 この人と人の延長上に、地域と地域、国と国もあるのではないか。
とすれば、日本の今日、対アメリカ、対韓国、対中国……はどうなのだろう。
対アメリカ、これはもう「つく」の極みで、流されっぱなし。角立ちっぱなし。 そのアメリカ(アメリカだけではなく欧米?)の教育を倣(なら)って、主体性(アイデンティティ)確立のための、ディスカッションがどうの、ディベートがどうの、と小学校から喧伝され、実践されている。
と言う私は、現職時代からどこか胡散臭い芝居性を感じたり、なんでそのアメリカで暗殺が多いのか?(だからアメリカで暗殺が多い?)と幼稚な疑問を持ったりしていた。今もそれはあまり変わっていない。

対韓国。 最近ひどく感情的で、それはお互い様とは言え、機微とか間(合い)など立ち入る余地もなく、情や智云々以前の混沌(カオス)状態とも言える。 このへんについては、既に2回投稿した。ただ、簡単に要約すれば、何かと疑義の生ずること必定なのでその内容については省略する。
ここで言えることは、『日韓・アジア教育文化センター』が発足でき、20年間続けられた人(その韓国人)との出会いの幸いである。 或る在日韓国人(大韓民国民某地区団長)が私に言った。
「井嶋さんは良い韓国人と出会った」と。ここで言う良いの意味は難しいが、私の中で韓国・朝鮮の「恨」の文化―その背景にある31年間(正しくは41年間)の日本による植民地支配―が、私の心の棘となっていることが根底にあることが、より繋がりを深めているのかもしれないと思っている。
そこにあるのは、「己の欲せざるところは人に施すなかれ」である。

因みに、もう30年も前のことだが、アメリカからの、ベネズエラからの、タイからの、私の最初の勤務高校への留学生(女子で、1年間)が制作した日本語による[創作絵本]で、彼女たちが日本(人)に、何を伝えたかったのか、あらためて観て欲しいと希う。 今も彼女たちのメッセージは確実に生きている。《その絵本は、日韓・アジア教育文化センターのホームページ[http://jk-asia.net/]「活動報告」の「教育事業」で確認できます。》

かつての日本の首相吉田 茂は、「元気の秘訣は?」と聞かれ、「人を食ってるからだ」と応えたとか。
もちろんこれは、「嘲(あざけ)る、馬鹿にする」といった侮蔑的な意味はなく、彼のイギリス仕込みからのユーモア(ウイット?)である。 そのユーモアとウイットの違いは、前者は情緒的で、後者は理知的、日本語になおすと前者は「諧謔(かいぎゃく)」後者は「機知」とのこと。
とすれば、この合理と理知尊重の現代、ユーモアはウイットの下位? したがって「ダジャレ」「親爺ギャグ」は、下位の中の最下位…。 このギャグ、英語にして「gag」、漢字にして先の「諧謔」の「謔」の貴重な掛け言葉?で、私は現職中、授業でこれを発作的に連発することがあり、乙女たちの(最初の勤務校が女子校)「先生!もうやめてください!お腹が痛くて胃が飛び出しそう!」と言わしめた実績がある。
もっとも、冷めた理知高い生徒は正に侮蔑の視線で眺めていたが。

そして今、政治と歴史知らずの私は吉田 茂に敬意を表する。
もっと身近な人では誰だろう?と巡らせてみたが、出会った人でそれに近い人は何人かいるが、意中の人はいない。
「かなしみ」[悲劇]より「おかしみ」[喜劇]の難しさとの証左かもしれない。
身近ではないが、作家の田中 小実昌(1925~2000)とか俳優の小沢 昭一(1929~2012)を思い浮かべてエッセイを読んでみた。
前者は非常な真面目さが行間に漂っていて、その点後者も真面目さは変わらないのだが、日常のことを採り上げたエッセイに人を食ったおかしみを感じた。40年続いたラジオ番組『小沢昭一的こころ』(通算10355回)は何度か聴いたことはあるが、ただただ氏の軽妙洒脱、秀逸な話芸に感嘆、抱腹絶倒し、それが何によったのかは記憶がない。話芸の神髄?

「退廃」(『言わぬが花』所収)という氏の短いエッセイがあり、氏曰く「文化は爛熟の果てに退廃するものである」と書いているのだが、単語によってはカタカナを使い、腹をよじられること必定の名文。
氏が喜劇「社長シリーズ」で、中国人役で出ていたことを思い出した。フランキー堺(1929~1996)もよく出ていたし、何と言っても彼の場合『幕末太陽伝』(1957年・川島 雄三監督)[この映画で小沢は脇役で出ていた]での演技は神業的だったが、氏が写楽の研究家で、映画『写楽』の制作者でもあり、大学教授という社会的地位に就いたこともあってか、小沢昭一のあのおかしみは、どうしても浮かんで来ない。そもそも氏の文章を読んだことがない。申し訳ない。

おかしみとしての「人を食ったような」の類語、連想語として40語ほど挙げてあるものを見つけた。 その中で、私が共感同意した言葉は以下である。
【孤独・どこか哀しい・さびしげ・飄々とした・しみじみとした】
つかず離れずが、飄々淡々に通ずることの、或いは飄々淡々と在ることの奥義には、つかず離れずあり、との発見。
そう言えば、小沢昭一は酒を呑まず食べることを愛し、独り食べ物屋に行くことも多かったそうだが、俳優の哀しい定めで、行けば店主や客からあれこれ話し掛けられる災いを書いていた。 私は俳優でもテレビに顔出す人種でもないその他大勢の一人だが、氏の気持ちに共振している。
職人に憧れる若者が増えているらしい。人間(じんかん)のならい、ヒトとヒトの関わりに疲れたのだろうか。
私も妻も次の生、どうしても人ならば、職人になりたいと思っているところがある。理由は、その技の妙もあるとは思うが、先ずヒト相手に仕事をしなくて済む魅力である。
民藝運動の推進者にして、「民藝」との言葉を編み出した人、柳 宗悦(むねよし)流に言えば「無心・無想の美」。 やはり漱石は偉大だった。

学校(私の場合、職業体験からの言葉として言えるのは中学高校)の一方の主役、教師はその人と人の機微をもっと察知、演技!して欲しい、と少なからず思う。もちろん自省を込めてである。 そして、保護者も自身を振り返り、なんでもかんでも学校、要は教師に、学校に何でも委ねる発想は、子ども・生徒たちにとって二重三重のマイナスになることに気づいて欲しい。
そもそもユーモアとかウイットに必要不可欠なことは「聞き上手は話し上手・話し上手は聞き上手」ではないのか。 教師には子どもの立場、心理お構いなしの一方的饒舌家が多い。これも自省自戒である。

と書いて来た私は、長男(兄)が生後直ぐに死去し、幼少時は次男にして一人っ子で、両親離婚により小学校後半は親戚に預けられ、中学校から父と継母との生活。高校時代に妹ができ、その妹は38歳にして癌で旅立つ。異母兄妹。したがって人生の基本は長男。こういう10代から20代は、先述の考え方に何か影響するのかどうかと思い、以下の説明を知り、なるほどと思った。 私は、なかなか複雑、めんどうな?ヒトのようだ……。

第1子の性格<性格の特徴>
• 人に気を遣いがち • 神経質 • 我慢強く、主張を飲みこみがち • 面倒見が良い • 責任感が強い • 真面目で努力家ゆえに学業優秀な場合が多い • 認められたい願望が強いがゆえにハイレベルなポジション目指す場合が多い
末っ子の性格<性格の特徴>
• 圧倒的にモテる人気者 • 天性の甘え上手で依存心が強い • 喜怒哀楽が激しい • 好き嫌いが多い • わがままで自分勝手 • 要領がよく世渡りがうまい • 負けん気やチャレンジ精神が強い
1人っ子の性格<性格の特徴>
• 執着心や物欲が弱い • マイペースでのんびり屋 • 争いごとが苦手 • 好意を示されると弱い • 自分大好き人間 • 世界観が独創的 • こだわりが強い