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2014年3月16日

北京たより(2014年3月) 『自傷』 (2) 自 傷

井上 邦久

(2)「みんなそのようにしているから」ではなかった日本人 

上海人なら泣く子も黙る虹口区「提籃橋監獄」の近くの舟山路・長陽路の地域には、1940年前後にナチスの迫害やソ連の圧迫から逃れてきたユダヤ人が居住していました。約2万五千人が生活していたと言われています。

その中には、リトアニアのカウナス領事館の杉原千畝領事代理が署名したビザを頼りにシベリア・日本経由で上海に逃れてきたユダヤ人も含まれます(6000人?説。残存するリストでは2139人?)

昨年末に地下鉄13号線が部分延長されて「提籃橋」駅がオープンしましたので監獄行きも便利になりました。駅を出ると道を挟んで、ユダヤ教会跡の「上海ユダヤ難民記念館」があります。周囲には欧州風の建築物も残り、日本軍が上海を占領してからは、隔離区として管理された記念碑も公園内にあります。これまでに記念館には折にふれて足を運んでいます。

記念館には杉原千畝の写真が掲げられて、多くのユダヤ人を救った恩人として顕彰されています。2年前、駐在仲間から「記念館のボランティアの学生が、政府の方針に背いた杉原は帰国後処刑された、と説明をしていたので修正しておいた」という連絡がありました。

これは見過ごせないとすぐに記念館へ行き、「蝶理創立60周年記念誌」を渡して、そこに、1969年12月25日付けで蝶理株式会社モスクワ事務所長に任命する命課通報が掲載されているのを見てもらいました。それを証拠に、杉原千畝が戦後は商社マンとして活躍したことを知ってもらいました。

翌日、記念館の責任者からも御礼とともに事実を再教育するとの電話を貰いました。

そして今年の春節、改めて記念館を訪ねました。
東京では大雪、上海でも小雪が舞う寒い日で、見学者も少ない日でした。

責任者の高智慧さんとお話できました。
「昨今の日本との間にはストレスが大きいので、杉原さんの写真も外されていないか心配して、念の為に確認に来ました」と率直に伝えたところ、「とんでもない、我々は人の生命を至上としている。勇気を持って多くの生命を守った杉原さんを尊敬しています。日本との関係がどうであろうと関係なく守ります」と明解で応えてくれました。

そして「私の母方の祖母も日本軍による被害を受けたと教えられている。どこまで事実かは不明だが、その事と杉原さん達の業績を尊重する仕事とは別の問題です」との言葉を添えられました。

ナチス・ソ連・日本の外務省の圧力の狭間で「みんながそのようにしている」ことと別の行動を選んだ杉原さんと、反日キャンペーンが増す現在の中国で杉原さんを守る高さんの姿勢には相通じるものを感じました。
インテリジェンスの先達として、会社の先輩として、杉原千畝そして記念館を微力ながら守り立てて行きたいと思います。

日本から伝わる図書館や書店での書籍への「傷害事件」の報せ。
秦始皇帝の「焚書坑儒」から『はだしのゲン』までの事象に繋がると思います。書籍を傷つける人間には、その行為が人を傷つけている事とともに、自らをも傷つけている事に気づいて貰いたいです。

(3)中国での人間関係

 ○ロマンティックになり過ぎないこと、冷笑的否定的にならないことが大切。

 ○認めるか認めないかに関係なく、歴史的な背景はできるだけ多く知っておく。

 ○厳しい言葉に過剰反応しない。毅然とした態度や「衆口難調」(全員の口に美味しい料理は作れない)でいなす。
厳しく言ってみて相手の反応を見るのが中国の伝統技?

 ○正論を言っても大丈夫な場合とそうでない場合
→オーナーの権限が鋭角的に強く、ボスの容認範囲では、「何でも言える」
→一党独裁は民間企業も含めて基本的な構造

 ○「AWAY」であることを常に意識する(「日本だったら○○なのに」はナンセンス)
→「中国に住んでいるからこそ○○ができる」
→日本を知ることができるという肯定的な発想。

(4)結び

自作の「通訳」についてのコメントです。
「相手の国の言葉で、自分の国の歴史を語る努力がグローバルの出発点」 

以上、お喋りを続けてきましたが、

お喋りの「喋」と蝶理の「蝶」は旁(ツクリ)が同じです。草カンムリを付ければ「葉」、魚ヘンは「鰈」、牙ヘンなら「牒」、木ヘンなら「ゆずりは」ということで共通するのは「薄い」という概念です。

当方の話は、子供が玩具箱を引っくり返した様な「薄い」お喋りでしたが、皆様にとって、何らかの考えるヒントになれたら幸いです。

ご清聴、ありがとうございました。

(参考書物)

リービ英雄    『星条旗が聞こえない部屋』『我的日本語

カズオ・イシグロ 『わたしたちが孤児だった頃』

楊 逸      『時が滲む朝』

(以上三名は米英中のバイリンガル作家、中国現代史を背景にした作品)

道上尚史  『外交官が見た「中国人の対日観」』→前駐中国公使・現駐韓国公使

村上春樹  『中国行きのスロウボート』『ねじまき鳥クロニクル』

→春樹ワールドの背後にある中国近代史。神戸とノモンハン事件。

中島 一  『中国人とはいかに思考し、どう動く人たちか』

→過激な装丁に惑わされずに読めば、帯文とは異なる冷静さと緻密さ。

榎本泰子『上海』    → 専門は音楽史研究。上海オタクの臭みもない。

堀田善衛『上海にて』  → 1945年から1946年の青春の上海
[ブログ編集者より]

一昨日、井上さんが言われる「自傷」者が、逮捕されました。
言動に問題があり、刑事罰を問えるかどうか調査中とのことですが、そのことで問題をうやむやにするなどということにならない、ならないとは思いますが、それぞ
れが自身の問題として考えるよう思います。[井嶋]