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2015年2月3日

「北京たより」  2015年新春インタビュー (上海)

今年最初の「北京たより」は、筆者井上邦久さんへの、大城昭仁さんのインタビューです。
大城さんは、「英必諾企業管理諮詢(上海)[INVENIO CHINA]総経理CEOで、
国際公認投資アナリストとして活躍されています。 (井嶋記)

「人には添うてみよ、馬には乗ってみよ」

                                                                        井上 邦久

(大城)本日は、井上さんの行動原理や意思決定の「本(もと)」に迫って、読者の方の「本立道生」のヒントにできればと思います。井上さんが大事にされている価値観、哲学を教えていただけますでしょうか。

(井上)哲学ではありませんが、『人』を基本に考えています。だから「適材適所」という言葉が苦手です。なんとなく、恣意的で、人をコマのように考えていませんか?人間の尊厳を軽く捉えてはいけない。

(大城)なるほど、確かにそうですね。それに、今の効率だけを重視した、極めて短期視点にも感じられますね。

(井上)人には、それぞれにさまざまな可能性があるし、他人が思った通りにできるような存在ではないのでは。だから、リーダーとして重要なのは、適材適所に人を配置することではなくて、個々の潜在力を開花する土壌を準備することではないでしょうか。

(大城)どうやって開花させるのですか?

(井上)リーダーは、「点火型」でなくてはいけません。それから、「可燃型」である必要もあります。みんなに点火して、自らも燃える。そして、みんなが点火した火に反応するのがリーダーの役割だと思います。

(大城)実際には、全く正反対の方も多くいますね。

(井上)一概には言えないでしょうが、中には何かやろうと言うといつも火を消す「消火型」、全く燃えない「不燃型」の人は居ますね。冷静にリスクを見つめるのは結構ですが、そういう人ばかりがリーダーだと、人の可能性が開花しにくく、組織が衰退していく惧れがあります。やはりリーダーは燃えてないとね。

(大城)全ての人に火を点けることはできますか?

(井上)点けようとしなければなりません。雑草という名前の草がないのと同じで、人には一人一人に個性がある。いろんな人に、いろんな良いところがある。その可能性を見つけて開花の準備をするのがリーダーの仕事です。「愉しい、嬉しい」というのを中国語で「開心」と言いますね。心を開いて、相手に寄り添い、馬に乗ってみるのが始まりだと思います。朝からできるだけ多くの同僚に対して、「你好+1」を心がけています。その為に、早寝早起きと深い眠りを得る工夫をします。

 

ウルムチへの挑戦

(大城)ウルムチへの拠点開設を決められましたね。テロの問題などもあり、2000年以降の開設は、ほとんど例がないと聞いています。

(井上)確かに、民族紛争の火がくすぶっている地域で、敬遠されていますね。でも、高度成長していく地域の一つだと分析していますし、中央アジア・ロシアそしてヨーロッパに繋がる大きな可能性を秘めた地域でもあります。だから、自分たちの目で地下のマグマの状態を常に“定点観測”して、中国ビジネスのリスクと可能性に対して、自信を持ってお客さまにお話したいと思って進出を決めました。

(大城)自らの目で見ることが目的ですか。

(井上)当然、短期・長期の事業上の収益は初歩的に考えています。しかし、本質的には、中国に寄り添いつつも、中国との距離感覚を磨く試練の場所の一つだと考えています。

(大城)中国のほとんどの歴史書は、人物別の列伝の形で書かれていますね。人に寄り添って記録しようとしているように思います。中国の歴史は「人の歴史」で、人間研究なのだなぁっていつも思います。

(井上)個人的には、すぐに便利に使えるけど価値が下がるばかりの工業製品よりも、使い込む程に価値と親しみが増す民藝品を集めています。寄り添って、関係を深めていかなければ味わいのあるものにならない。適材適所は、工業製品に似ている話ですね。

 

中国に寄り添う

(大城)寄り添うといえば、中国に“寄り添って”何年ですか?

(井上)中国に初めて来たのは71年です。80年から出張でべたっと年間に150日以上は中国にいました。

(大城)71年というと、日中共同声明による国交正常化より前じゃないですか!それは、すごいですね。

(井上)実は、その折に幸運にも周恩来さんと面談して、食事もご馳走になりました。政治的に大変な時期にもかかわらず、細やかなお持て成しを頂いて、本当に懐の大きい方でした。

(大城)それは、どれほどすごいことなのか、私には想像がつきません。周恩来さんは、私にとっては、まだ生まれる前の、歴史上の人物ですよ。

(井上)その後、ヨーロッパにも頻繁に行き、南米にも足を伸ばしました。中国の地図を土産とプレゼンの為に持っていくと取り合いなんですよ。中国は、見たこともない未知の世界。みんな、興味津々でした。

(大城)そういった世界を飛び回る生活をしていると、世界はどんな風に見えるのですか?

(井上)『複眼』が身についたかも知れません。一方から見た世界は、他方から見ると全く違う見え方をする。人間についての見方も同じ、民族や国に対する見方も同じ。壁を低く、心を開いて、寄り添っていくという考えは、そういうところから生まれてきたのかもしれませんね。ウルムチ進出も原点はそこかもしれません。

(大城)最後に、読者のみなさんに“元気が出る”一言をお願いします。

(井上)有名なクラーク博士の言葉、“Boys, be ambitious!”には続きがあるっていうのはご存じですか? 北大教授の友人に確認したのですが、“Boys, be ambitious like this old man!”が正しくて、60歳を過ぎた友人も授業で繰り返し口にしているそうです。同年輩の僕も次はカンボジアに燃えています。