【制作への思い】
若い人だけに限定しなくとも、日本人は自国・地域の文化(ここで言う文化とは、古代からの、また現代の、
精神文化・芸能芸術文化であり、自然風土を意味しています)をどれほど知っているでしょうか。
中学校高校で、学校教育活動として、例えば伝統文化(芸能)を文字と映像、時には実演で接する機会はありますが、
かなり専門的であったり、時間も少なく、従って採り上げる文化は限られたものとなり、より多くの文化からの関心興味の
自己選択は限られているのではないでしょうか。
必要なことは、できるだけ多くの入り口に導き、個に応じた心を喚起させることではないでしょうか。
後は自身の関心、環境に応じて、多様多量の資料等に、自身でぶつかって行く、との自主の尊重です。
その時、私たち「日韓・アジア教育文化センター」の日本語・日本文化に関わる日韓中台の委員と
映像作家・デザイナー・写真家の協働は、これを形にする大きな可能性を持っていると信じています。
【制作意図・目的】
これはあくまでも糸口のための制作であり、「日本文化」を通して、それぞれが生活する国・地域の昔と今を知り、
そこから未来の自身の生きようや社会のありように思いを巡らせることを意図しています。
私たちは次の二つの視点を大切にしています。
- 国内外で日本語を外国語として学ぶ青少年[日本語教育]のための、日本文化から日本を知る支援。
とりわけ、日本文化の一源流の地理的環境、東アジアの日本語教育への相互理解、相互啓発のために。 - 国内外で日本語を母語として学ぶ青少年[国語教育]のための、日本文化から日本を確認する支援。
国際化に伴う移動の時代にあって、自身のアイデンティティを確認するために。
【制作方法】
今、「2011.3.11」の後(とりわけその政治と企業)が、若者を中心としての就業環境が、象徴するように、
現代日本から「優しさ」が、確実に希薄になりつつあるように思えてなりません。「物質文明・消費文明」に懐疑しながらも、
そんな懐疑に留まっている自身にいら立っている人は私を含め多く、「強い日本」指向の「強い」に係る日本と
近代化の吟味もなく、愛国の意味は一面だけで使われる、そんな危うさが肌に突き刺す現在日本。
優しさは、学校の「倫理・道徳」授業や識者(大人・教師)の言葉で、快復され、前進するなどあり得ません。
言葉の空しさ、歯がゆさを体感するからこそ葛藤している若い感性に、言葉を、まして識者(教師・大人)が、マスメディアが、
意気軒昂に、正義派よろしくたたみ掛けることは、時に逆効果です。
その時、眼で、耳で、[文化]を直覚することは、気づきと発見への大きな力となるのではないでしょうか。
視聴覚の力です。そして、そこには「文化」への眼差し・心が求められます。それがあっての優しさへの気づき・発見です。
私たちは、次のテーマを「三つのかなしみ」「自然」の心・視線でとらえようと考えます。
【採り上げるテーマ】1テーマ 20分前後
神々の誕生・相撲 自然・富士山/温泉 人々の暮らし 自然・四季 仏教 女性 言葉[日本語]
【テーマへの「三つの眼差し」と「自然」とは】
「自然」(二つの自然)
- 人を育む風景・風土としての「自然」 ―日本列島の本州部を基底に置いて―
- 人の心の動きとしての「自然」[自然な心の動き] ―制作者(日本人)の心の自然を基底に―
「かなしみ」(「やさしさ」の源に在ることとしての「三つのかなしみ」): - 悲しみ(心が引きちぎられる「かなしみ」)
- 哀しみ(あわれを思うしみじみとした「かなしみ」)
- 愛しみ(愛情深く慈(いつく)しむ「かなしみ」、愛でる心、うつく愛し)
【映像内容】
- 実写、写真、イラスト、アニメ、人物等の多角的組み合わせ
- ナビゲーター(韓国語話者・中国語話者)
韓国向け:日本語と、韓国語による要点の字幕
中国向け:日本語と、中国語による要点の字幕 - 音楽 日本の諸作品(演奏:原曲版、編曲版)
例:童謡の、欧米演奏者版 - 解説書s
- 国、中国の日本語教員が理解しやすく、簡約な表現
- 次の関心への基本的な参考書、視聴覚作品の紹介
【制作責任者】
井嶋 悠 [本センター代表]
逢坂芳郎 [本センタードキュメンタリー映画、韓国・日本語教科書映像版監督]
【作品完成後】
韓国は「ソウル日本語教育研究会」「韓国日本語教育研究会」から日本語教育関係機関へ配布
中国は「香港日本語教育研究会」及び国際交流金北京事務所等に寄贈し、希望機関に配布
台湾は「交流協会」等に寄贈し、希望機関に配布
日本は「教育委員会」「私学連合会」等を通して、希望機関に配布
【作品例】
[自然・富士山/温泉]を例に、どのような内容か、画像展開をイメージしながら概要を記してみます。
タイトル:
背景画面:「聖山」のイメージで夏の富士山とご来光と登山客
導入説明:2013年に世界遺産に、しかしごみとトイレ問題にも触れる。
【画像展開】
- 富士山の冬の風景、麓や空からの全体像[三保の松原・田子の浦からの富士山]
- 「万葉集」からの紹介 快晴の中の冬の富士山
[田子の浦ゆ 打ち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りけり]
「百人一首」からの紹介 絵画? CG?
[田子の浦に 打ち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ]
※二つの美 - 「竹取物語」からの紹介
かぐや姫の月への帰郷と富士山の煙(活火山としての富士山)(秋、紅葉を背に)
※活火山としての富士山 - 休火山に (1707年の噴火の後) 春、桜を伴っての富士山
- 葛飾北斎の「富嶽三十六景」の紹介
- (「浮世絵」の紹介:完成までの3段階を)
- 富士五湖を映しながら、火山分布図の紹介
- 火山国であることは地震国
江戸時代からの大地震とその地を地図を映しながら紹介
参考に室町時代(12世紀)の例
「方丈記」からの実状と絵巻物での紹介
2011年3月11日 惨状と現状 - 先の火山分布図を基に温泉分布図の紹介
温泉の特性の紹介 - 別府温泉(地獄めぐり)と和歌山・勝浦温泉(海の洞窟)の紹介
温泉に入る時のマナーの紹介 - 夏の富士山を眺めながらの露天風呂
そして、「あなた自身、そしてあなたのくに[国・郷土]では、いかがですか。」と問い掛けて終わる。
このフレーズは、すべてのテーマで共通。
【参考】
上記画像展開と「三つのかなしみ・自然」 簡略化していますが、私たちにあるのは次のようなイメージ・つながりです。
万葉人(まんようびと)の畏敬(いけい)。月に帰ったかぐや姫を追(お)い慕(した)う富士の煙。「かなしみ悲・哀・愛」。
大空に雄々(おお)しく凛(りん)とそびえ立つふがく富嶽36景。活火山復活もささやかれる聖山富士。
全国到る所に広がる温泉。自然と心身の融合。和気(わき)。
いつ、どこでも起こり得る地震と隣り合わせの国日本。
自然の慈しみと脅威(きょうい)、しかし自然エネルギーの可能性を秘めた国日本。
2011.3.11の途方もない重み。「悲と哀」からどのような「愛」を?