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2014年7月10日

北京たより(2014年7月) 『散歩』

今回の井上氏の「たより」は、

在留邦人10万人以上、総人口2600万人の上海で、

定期的に開催されている『上海歴史散歩の会』の、第65回[松江地区の散歩]に、

久しぶりに参加されてのメッセージです。

以下、余計な井嶋の前口上です。

 

私[井嶋]は、最後に勤務した学校務や「日韓・アジア教育文化センター」主催の交流・会議で、何度か上海を体験しました。

しかし、それらは数日の、正に点の訪問で、薄っぺらなものです。

例えば15,6年前のことですが、路上延々と私につきまとい、時に泣き真似をして、金銭を要求していた小学校高学年とおぼしき男の子が、高層ビル建設ラッシュの上海に地方から家族丸ごと来て建設途中のビルに住んでいる事実(当然?在籍校はありません)と、一方での華やかな街並みとそこに集まる多くの国内外の人々の対比から、複雑な思いに駆られながらも結局は一過性の心でしかなかった自身。

確かに、北一輝とか大川周明また魯迅、また映画などからの想像もありますが、それらは私流勝手な思い描き世界です。

それに引き替え、この会に参加されている方々の眼差しは、それぞれの上海での日々に立った強いものです。

その中に、日本人学校の先生方(任期は3年~5年)もおられ、その方々が、世界一の大規模日本人学校(2校あって、小学部1校・約1600人、及び小学部中学部と初めての日本人学校高等部合せて約1600人の、計3200人有余の生徒数)での、生徒や保護者たちとの、日本の各地から集まった先生たちとの、また現地中国人を含めた職員たちとの協働に加えて、古代からの上海史を眼と心での学びは、帰国後の生徒・保護者また周りの人々に広く大きな眼差しを与えることと思います。

 

「たより」と併せて、添付の「資料」から、上海の昔と今を味わってください。

 

尚、「たより」中、氏の「歴史「を」知識として学ぶだけでなく、歴史「に」学んで今に活かすべき」との言葉があります。

在職中の大きな課題「教科書教えるではなく、教科書教える」を思い出しました。                                                                                                                       [井嶋]

 

北京たより(2014年7月)

『散歩』

上海・松江散歩 前編      上海・松江散歩 後編

井上 邦久

6月中旬は毎年日本での会議の季節です。株主総会と経営会議の谷間の週末に帰郷しました。

羽田から北九州空港まで1時間半。潮風の空港からバスでJR日豊線朽網駅に出て、各駅停車で中津まで1時間半。先に海に近い安全寺へ。戦時疎開した祖父が愛でてよく散歩したという、掃除の行き届いた気持ちの良いお寺です。
福沢諭吉の従兄、西南の役で散った草莽の士、増田宋太郎の墓もあります。祖父母・伯父・叔父に花を手向け、戦後混乱期に早逝した叔父と同級生だった住職の母堂と話をしました。

次に寺町の一角、大河ドラマ関連の取材で訪れる人も増えたという赤壁合元寺へ。墓に水を濯いでいたら、夕方の鐘が鳴り始めたので、鐘撞堂へ行くと大黒さん(住職夫人)が「アリャ!井上さん。来ちょったン。方丈さんを呼ぼう。代わりに撞いちょくれ。あと2回だけよ」と元気な声で迎えてくれました。
子供の頃から念願の鐘撞きがあっさり実現しました。周りの寺からの鐘音も已んだこともあり、あと3回撞きたいのを我慢して、方丈さんとの茶飲み話(黒田官兵衛に抵抗した土豪宇都宮一族の事、知人故人の話、そして中国外交部スポークスマン評判)。雨も降り始めたので、駅まで大黒さんに送って貰いました。お寺の奥さんは十一面観音と千手観音を合わせたような人で、大変な仕事だなあといつも思います。

菩提寺参りで1時間半。中津から特急、小倉で新幹線に乗り換えて徳山へ1時間半。
午前中は東京で仕事をしていましたが、色んな1時間半を経て、遅めの夕食を妹一家と食べました。

上海に戻って直ぐ会社の総務担当者にパスポートを召し上げられ、公安局での居留証更改手続き開始。
7工作日(営業日)の間は足止めです。お蔭で梅雨入りした上海で、久しぶりに長逗留をしました。

前日の大雨も已んだ日曜日。地下鉄2号線の駅で8時に全員集合。「上海歴史散歩の会」への久しぶりの参加です。和蕎麦の店を毎年増やしている『紋兵衛』オーナーの支援手配によるバスで松江地区へ。
いつも人気の歴史散歩ですが、今回はバスの定員の関係もあり申し込み殺到、一日で札止めでした。

先ず、松江の外れの民家の間をぞろぞろ抜けて、小さな橋を渡った所に潜んでいる春申君祠堂。松江の歴史を描いたレリーフ壁画の前で、簡潔明瞭な解説がありました。
事前に配布された添付資料の達意明晰な文章で感じた通り、要点を押えて無駄のない、印象に残る解説でした。

散歩の途中や隣り合った昼食時、その後のメール交信で知ったのですが、華東師範大学の博士課程在籍の少壮研究職の方でした。「私自身は、10年くらいのスパンで中国というものを理解しようと考えており、今年で5年目になります。あと5年はこちらに留まって研究を続けながら、老百姓(「庶民」としか拙訳できませんが、広い意味を含む言葉です)の何気ない日常について理解を深めたいと思っております」これまた共感する姿勢を簡潔に表現されていました。

これ以上「多余的話(言わずもがな)」の紹介は控えます。方塔園で上海随一の庭園景観という触れ込みに納得し、清真寺(イスラム経寺院)でハンサムな回教徒からの説明と写真撮影。老街・市場を抜けて大倉橋欄干に腰掛けて水運栄華の名残を眺めました。

上海発展の基は松江から始まり、米と綿と塩の三白の生産地として、太湖の水が黄浦江・蘇州河に流れ、北京まで繋がる水運の集散地として栄えた一端を見聞できました。皮影戯(影絵人形劇)の実演場所も発見できました。なぜ上海を申城と称するか?黄浦江の名前の由来は?という基礎知識についても添付資料に詳しく説明されています。

帰りのバスで、会の顧問である陳祖恩教授の「講評」を聴かせて頂けるとのことでした。清真寺参拝の為の禁酒令も解かれ、麦酒が車内配布されましたが、ぐっと堪えて「講評」を待ちました。期待した以上の素晴らしい「講話」でした。

2009年に上海に赴任したばかりの頃、職場近くの『紋兵衛』1号店のレジで『上海の日本文化地図(上海錦繍文章出版社)』を知り、『上海に生きた日本人―近代上海的日本居留民1868~1945(大修館書店)』には繰り返しお世話になってきました。その著者の陳教授は、気さくに散歩話を聴いてくれました。蝶理株式会社の前身の大橋商店上海事務所の所在地をこの5年間探して見つからないことも伝えました。数日後、陳教授から以下の連絡を頂きました。

「有关大桥商店的历史遗迹,现据当时的《上海邦人人名录》(1916、1936、1939、1943)、《上海年鉴》(1926)、《商工录》(1939)和《日华商工信用录》,均未有大桥商店的记载。很遗憾。以后如有发现,会及时与您联络。 陳租恩」

遺憾ながら各種記録には記載がありません。以後見つかったら直ぐにご連絡します。という誠意にあふれる内容でした。

バス車内「講話」の最終段で、陳教授は「これほど熱心に歴史を学ぶ日本人が居るのに、中国人の参加者が少ないのは残念。中国人は歴史に学ぶべきだ」と語られました。
日本人も歴史「を」知識として学ぶだけでなく、歴史「に」学んで今に活かすべきだと思いました。

そんな思いでいるところに数日後、『紋兵衛』オーナーから声が掛かり、実に深みのある実践者のお話を伺いました。その翌日に対話の印象を綴る機会があり、以下のメールを東京へ発信しました。
T.I.様 読売新聞27日付け夕刊に掲載された「浅川巧 INソウル」のご案内とコメントに感謝します。
実は先般の台湾行きで、戦前ダム建設・治水の為に尽力した八田与一の本を読んでいて、浅川巧に通じるものを感じました。無私、無雑、その土地への半端ではない思い入れ・・・
特殊例、美談としてではなく、本や碑が残らなくとも、その土地に根をおろした人たちが多く居ると思います。昨夜も、上海にてT.D.氏という方から呼ばれてじっくり話を聴かせて頂きました。
大手製薬メーカーの経営を60歳で退き、中国で本格的な和蕎麦を伝える教室を開かれたた後、8~9店舗にまで拡がる蕎麦屋チェーンのオーナーとして実業でも活躍されている方です。
昨夜の話は、留学生たちへの支援活動、生身の中国力をつける塾活動に協力して欲しいとの要請でした。
D氏自身は「父親の気持ち」になって、若者への支援に投じているようです。
父親が中国で戦死した半年後に生まれた事のみを最後に洩らされました。戦後混乱期に母子家庭でご苦労をなさっただろうと容易に想像できますが、それが「中国で」「父親の気持ち」になって、支援教育をする精神的な基盤に繋がっていると想像しました。ナショナルスタッフとの接し方、若い駐在員への薫陶、そして留学生への支援など共通する分野で学ぶことの多い夜でした。そして、その翌日にソウルの浅川巧についての連絡をいただける御縁が嬉しく、感謝致します。   井上@北京快晴35℃

 

北京で「僕らの日中友好」最終報告書(全41頁)を代表の渡辺航平さんから直に受け取りました。
活動のエキスと1元も疎かにしない収支報告、そして参加者の未来志向が詰まっていました。

https://www.youtube.com/watch?v=OBy7IFSteZo  http://v.youku.com/v_show/id_XNzlyOTY2MDI4.html